特定の人物や会社などについて調査を行う、興信所や探偵事務所。
この2つがどう違うのか、と聞かれると「現代では決定的な違いはない」という返答になります。
しかし、それはあくまで現代の話。
興信所と探偵はその興りに違いがあり、もともとはそれぞれ調査対象が異なっていました。
このページでは、2つの調査に関する組織の成り立ちと、変遷についてご説明します。
興信所の興りと、その調査対象とは
日本における興信所の発祥は、1892年に大阪で開業された商業興信所です。
アメリカ、イギリスにおいて信用調査業がいかに重んじられているのかを知った銀行関係者の外山脩造が、関西地区の銀行30行の協力を得て設立しました。
信用調査とは、信用審査とも称される調査のこと。
企業間で、相手先の企業が取引相手として信用できるか確認するために行う調査です。
業務提携、融資などを行う場合、相手先の企業が債務超過に陥っていたり、訴訟などのトラブルを抱えていたりすると、資金の回収ができなくなるというようなことが起こりえます。
そのような損失を防ぐため、企業から依頼を請けて、取引先企業の資産状況や営業状況などを調べるのです。
元来興信所とは、この信用調査を中心に業としている調査会社のことを指しました。
もっともわかりやすい例として、1900年に設立された「帝国興信所」があります。
帝国興信所は、現在も企業の信用調査を行っている国内最大手・株式会社帝国データバンクの前身です。
また、同じく企業信用調査大手・株式会社東京商工リサーチも、前身は「東京商工興信所」でした。
探偵事務所の興りと、その調査対象とは
一方で探偵はどうでしょうか。
日本では「探偵」という言葉自体は古くから使われており、江戸時代には同心や岡っ引きなど警察機能を担った人たちが「探偵方」と呼ばれていました。
明治時代になってからも、私立探偵が登場する明治20年代までは、刑事や巡査など警察官も「探偵」と呼ばれていたといいます。
公私問わず他人の情報を探る捜査活動をする人、諜報員の役割を担う人に対し、「探偵」という言葉が使われていたのです。
民間の「私立探偵」が、業として確立したのは明治22年(1889年)です。
東京・日本橋で、光永百太が「なにごとにもかかわらず、公衆の依頼を受け、秘密事件を探知して依頼者に報告する」をモットーに探偵社を設立しました。
古い時代の「探偵」の呼称や、光永のモットーからもわかるように、探偵は「対個人」の調査がメインであり、現代の探偵業に近い形で存在していたといえるでしょう。
調査対象者の身辺、行動、人間関係などをつぶさに調べ、調査を依頼した相手に結果を報告し、報酬を得る調査会社として成立したのです。
しかし、明治時代〜昭和初期の探偵は、現代よりも捜査権限も多く、幅広い調査・捜査を行っていました。
1895年に探偵社を設立した岩井三郎は、刑事を退官した人物で、私立探偵として警察に協力し、「シーメンス事件」や「花王歯磨密造事件」など数多くの刑事事件の解決に寄与したといわれています。
小説や映画に出てくるような探偵は、まさにこの時代の名残といってもいいかもしれません。
現代の興信所と探偵事務所
興信所と探偵が登場した当初は、
- 興信所=銀行家が設立、対企業の信用調査
- 探偵 =警察関係を指す言葉、対個人や事件の調査・捜査
と、明確な違いが存在していました。
しかし現代では、興信所と名乗る業者が浮気調査や素行調査を行ったり、探偵という看板の業者が企業の信用調査を行っていることも珍しくありません。
要するに、ほぼ同じ業とされ、ほとんど区別がないのです。
今も、興信所は対企業、探偵は対個人という名残はあるものの、大差はないと考えていいでしょう。
そのため、各業者がどんな調査を得意としているか、見極めが必要になったと言えます。
興信所と探偵の業務の区別が曖昧になった要因に、「探偵業法の施行」と、「大手興信所の企業信用調査独占」があります。
探偵業法が施行され、興信所の調査内容はどう変わった?
現在では、探偵事務所も興信所も、同じ「探偵業法」という法律のもと管理されています。
探偵業法は、調査業者と依頼者の間でトラブルが増加したことを背景に、平成19年6月に施行されました。
この法律で言う「探偵業務」とは、「他人の依頼を受けて、特定人の所在、行動についての情報を、聞込み、尾行、張込み等の方法で、実地の調査を行う業務」とされています。
前述の由来から、この法律では、探偵、興信所に一般人以上の権限を認めるような記載は一切ありません。
このような調査を行って依頼者から費用をいただく業者は、全て探偵業法で管理されることになります。
そのため、探偵業法の上では興信所も探偵事務所も一切の区別がない、ということです。
また、興信所、および探偵事務所の調査内容は、探偵業法以外に、個人情報保護法が整っていったことにも大きな影響を受けています。
人や法人の秘密情報を取り扱う業者であるため、それも当然のことと言えます。
携帯電話番号からの個人情報調査などは最たるもので、現在ではほぼ違法である調査のひとつです。
その他にも、事例が積み重なり法律が整ってくるとともに、許されなくなった調査はいくつもあります。
そうした流れで、個人でできる調査が限られていき、生き残りのために調査内容が重なっていったとも考えられます。
大手興信所の企業信用調査独占
興信所と探偵事務所の業務の区別が曖昧になった理由の1つには、対企業の信用調査を行う興信所の淘汰という面もあるでしょう。
現在、対企業の信用調査は、帝国データバンクと東京商工リサーチの2社だけで9割近いシェアを占めています。
この2社は主に信用情報のみを扱っており、尾行や張り込みのような実地調査を行わないということで、探偵業の登録は行っていません。
企業調査には信用調査の他にも、産業スパイの特定や盗聴器発見調査、横領調査など色々とありますが、実質的な企業信用調査の中核はこの2社に集約されているため、中小の「興信所」は企業調査だけでは生き残るのが難しいのです。
そのため、実地調査のノウハウを生かした浮気・素行調査や身元調査にも裾野を広げていった側面が考えられます。
まとめ
興信所も探偵事務所もよく聞く言葉ですが、意外とその違いを知らない方は多かったのではないでしょうか。
今は圧倒的に「探偵事務所」を名乗る業者の方が多いですが、中には「興信所」を名乗る業者もいます。
業務内容は似たり寄ったりでも、「対企業に強い」など自社の特徴からイメージ付けで名前をつけているケースもあります。
とはいっても、名称だけで業務や特徴を完全に区別することは難しいので、調査を依頼するときには、各興信所や探偵事務所のHPを参考にきちんと確認するようにしましょう。
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